本県の花き産出額は163億円(R4農林水産省)で全国第6位に位置しており、県の農業産出額の約3.7%を占めています。当研究所では、設立当初から切花のオリジナル品種育成に取り組み、グラジオラス、小ギクを中心として多くの品種をリリースしてきました。当記事では、本県が近年育成した花き新品種について紹介します。
国産のグラジオラスオリジナル品種を育成
グラジオラス切花需要の大部分は業務用であり、流通量の多くを白、ピンクの大輪系品種が占めています。現地で生産されているグラジオラス品種の多くは海外育成品種で、その球根の供給は輸入に依存しており、検疫による輸入停止が発生するなど安定的に入手できない問題があります。また、他の主産県と同様の品種構成となっており、産地の差別化が困難な状況です。これらの課題に対応し、当研究所は公設の研究所としては国内唯一のグラジオラス育種機関として、国産のオリジナル品種の育成に取り組んできました。
本県ではこれまでに業務用途向けピンク品種として「常陸はなよめ」を育成し、順調に普及が進んでいますが、需要のもう一つの柱である白色品種を求める声に対応し、白色大輪系品種「常陸はつゆき」を育成しました(写真1左、2024年4月出願公表)。本品種は業務向けとして十分な切花長110cm以上を安定して確保でき、花弁にフリルが入る特長があります。現在の主要品種「ソフィー」とともに、業務用白色品種のメインを担うことが期待されています。
コロナ禍以降の各種イベント・冠婚葬祭ニーズの変化により、花きの需要にも大きな変化が生じています。業務用途以外に今後期待される需要としてホームユースが挙げられます。
これに対応した小売り向けミニグラジオラス品種として「常陸あかつき」を育成しました(写真1 右、2024年4月出願公表)。花色はこれまでにないくすみ赤・オレンジぼかしで、切花長は70~90cm 程度で安定して短く、家庭で飾るのに適したサイズ感の品種です。今後、本品種に続くニュアンスカラーのシリーズ品種の育成が求められており、グラジオラスの新規需要を開拓する品種として期待されています。
バラはブライダル向けと収量性の高い品種を育成
バラは茨城県の県花でもあり、長い間オリジナル品種の育成が望まれていました。しかし、グラジオラスと同様に、バラの主力品種は海外育成品種で、産地の特色が出しにくい状況がありました。オリジナル品種は県のイメージアップやバラ生産の経営向上に効果的であるため、市場性、収量性の高い品種の育成に取り組んできました。
現在までに、ブライダル需要に適したグレー系薄紫の「紫峰」(写真2左、2024年4月出願公表)、ピンクの花色で収量性が高い「ひたち乙女」(写真2右、2024年6月出願公表)の2品種を育成し、現地への普及を図っています。
「紫峰」は主力品種「サムライ08」と同程度の収量性を有し、ブライダルでのブーケやテーブル装花に適すると評価されています。「ひたち乙女」は、かわいい姿と需要が多いピンクの花色で多用途に向くと評価されており、収量性も高いために生産者の経営向上の面でも期待されています。
この2品種は第72回関東東海花の展覧会において茨城県特別展示エリアに展示され、秋篠宮ご夫妻と佳子様をはじめ来場者の皆様にご観覧いただきました(写真3)。佳子様はバラの香りをご確認され、秋篠宮様は紫色の花色についてご質問いただくなどご興味を持っていただけたようで、本県のバラの良いPRの機会となりました。
最新の7月咲き黄色小ギク品種に期待
本県の小ギク生産は、7~9月の物日需要向けが主体であり、6~10月の東京都中央卸売市場における小ギク出荷数量は約36%を占めており、全国第1位となっています。生産現場では6~10月にかけての長期出荷に対応するために多くの品種が栽培されており、赤色は約140種、黄色は約150種、白色は約130種にものぼります。これらの中には近年の気象や病害に適応しない品種も見られ、不良品種の淘汰と新品種の導入が課題となっています。
当研究所では2002年から物日出荷に適するオリジナル品種の育成に取り組み、2019年までに14品種を育成しました。これらには生産者のニーズに合致して継続的に生産される品種もありますが、一方で消費者ニーズの変化や、激しい気象への適応性の問題等により生産が縮小した品種も存在します。当所では過去にリリースした品種の再点検と育種目標の再設定を継続的に行い、より優れた品種へのアップデートができるよう取り組んでいます。
このような中、最新の7月咲き黄色品種「ひたち24号」(写真4)を育成し、2024年8月に農林水産省に品種登録を出願したところです。これまで、県育成品種の中では、「常陸サマーライト」が7、8月咲き黄色品種として栽培されていましたが、収穫期がより物日に近いこと、切り花のボリュームが優れること、白さび病にも強いことにより優良性が評価されました。電照反応性も有しており、確実な物日出荷に適応した品種として期待されています。
生産者の経営向上に寄与できる品種育成を
花き品種の変遷は早く、品種育成においては消費者・実需者ニーズを常に確認することが重要です。当研究所では、市場動向を捉え、生産現場の声を直接聞くために生産者、JA担当者、関連業者等が参加する現地検討会を開催し、育成系統の評価と今後の育種方針について情報交換を行っています。今後も他産地との差別化ができ、需要に対応し生産者の経営向上に寄与できる花き新品種の育成に取り組んでいきます。